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私たちの生活には下水道での汚水処理は欠かせません。
しかし、下水道普及率は地域によって大きな差があります。
全国平均81.4%という数字の背景には、地形や人口密度、自治体の取り組みの違いが影響しているのです。
下水道普及率の現状や仕組み、地域格差の理由を理解できるように数字を交えながら解説していきます。
また、浄化槽や自然処理方式など、下水道以外の汚水処理方法についても触れ、家庭での適切な排水マナーを紹介します。
快適で持続可能な暮らしを支える下水道の役割を知り、日常の生活に役立てましょう。
目次
下水道普及率は、地域の衛生環境を大きく左右します。まずは、下水道普及率や下水道がもたらすメリットを解説します。
下水道普及率とは、その地域の人口の中で、何%の人々が下水道を利用しているか、下水道を使えるかを示す指標です。
たとえば、普及率が80%であれば、その地域の8割の人が下水道を利用できる環境にあることを意味します。
計算式は下記になります。
下水道普及率(%)= 処理人口(供用開始告示済区域内人口)÷行政人口(住民基本台帳人口) × 100
下水道は、家庭や工場・店舗などからの排水を処理し、衛生環境を向上させ、水質の汚濁を防止する役割を担っています。下水道の普及率の高さは、重要な生活基盤の一つといえるでしょう。
※令和5年度末の汚水処理人口普及状況について – 国土交通省 のデータより抜粋して作成
令和5年度末時点で、全国の下水道普及率は平均81.4%と高水準ですが、都道府県別に見ると地域差があります。
都市部では東京都や大阪府などは高い普及率を誇り、下水道の整備が進んでいることがわかります。
一方で、徳島県や和歌山県のように、普及率が低い県があることもわかるでしょう。
下水道整備の現状は、都市部の利便性と課題を持つ地方という状態になっています。
ただし、下水道が普及していないというものの汚水処理の普及率は全国平均が93.3%と、かなり高くなります。
浄化槽や農業集落排水施設など、下水道以外の汚水処理施設が普及している地域もあるためです。
下水道の普及は、私たちの生活に多くのメリットをもたらします。
ひとつ目は、感染症の予防や健康維持に役立つことです。
汚水には、ウイルスや細菌が含まれています。
ヨーロッパで何度も流行したコレラは、19世紀後半以降の下水道の整備により劇的に減少しました。
下水道は、私たちの健康を守るための重要なインフラなのです。
下水道普及の二つ目のメリットは、環境改善への貢献です。
汚水の流れるどぶがなくなり、悪臭やハエ、蚊などの害虫が減少。
家庭や事業所からの汚水は、直接川や海に流れ込まないため、水質が向上し自然環境の保護につながります。
下水道がもたらす効果により、快適で持続可能な暮らしが実現しているのです。
下水道の普及は、私たちの生活に多くのメリットをもたらします。
下水道普及率の地域差は、地形や人口密度、自治体の財政状況などさまざまな要因が関係しています。
下水道普及率が低い傾向にあるのは、山間部や過疎地です。
その理由として、人口密度が低い地域では、下水道の工事コストが高くつくため、採算が合わないことがあげられます。
山間部では下水管を敷設する難易度が高く、下水処理場までの距離が長くなるため整備が遅れてしまいます。
これら、整備が遅れている地域では、浄化槽や農業集落排水施設などで排水を処理しているのが現状です。
都市圏は人口密度が高く、多くの人が利用することで効率的に下水道整備が進みます。
計画的な工事が行いやすく、処理場も適時建設されて普及率も高くなっているのです。
地形や人口密度の違いが、下水道普及率に大きな差をもたらしています。
和歌山県や徳島県の下水道普及率が低い理由は、下水処理の対策より、台風などで受ける浸水被害対策を重視してきたために、下水道が後回しになってしまったという経緯があります。
また、この2県は山間部が多いため、処理場までの距離が長いことも下水道の普及が遅れている原因の一つかもしれません。
和歌山県や徳島県に限らず、人口が流出傾向にあり人口密度が低い地域では、下水道整備費と維持費を回収するのが難しいことも自治体の課題となっています。
日本の下水道普及率は令和5年度末で約81.4%に達しています。
これはイギリスやフランスといった欧米諸国に並ぶ水準です。
先進国を見ると、ヨーロッパや北米、オセアニアでは普及率が70~80%台。
アジアではシンガポールが100%、韓国が88.6%(2009年)、マレーシアが70%(2010年)と、地域によって差があるものの、高水準な指標となっています。
一方で、東南アジアや開発途上国では下水道の普及率は低く、上水道すら整備されていない地域もあるのが現状です。
下水道がない地域では、地域や環境に応じた下水処理方法が行われています。
浄化槽や農業集落排水施設、コミュニティ・プラントなど、下水道に代わる処理方法について紹介します
浄化槽は、家庭や事業所などで発生する生活排水をそれぞれの敷地内で処理する設備です。
各家の敷地内に浄化槽を埋設し、生活排水を集めます。
槽内で微生物により分解された汚水はきれいになり、水路や河川に放流する仕組みです。
浄化槽のメリットは、下水道が整備されていない地域でも排水を適切に処理できる点にあります。
農業集落排水施設は、小規模な集落単位で汚水処理施設を設置し、生活排水を処理する設備です。
各家庭の排水を集落の専用排水管で集め、小規模な処理施設で浄化し、河川や地下に放流します。
浄化槽が人家のまばらな地域に適しているのに対し、農村集落に適した施設です。
農業用水路や地域の水路に生活排水が流れ込むのを避けられることから、山間部や過疎地での普及が進んでいます。
コミュニティ・プラント(地域し尿処理)は、市町村が団地などにつくる小規模な下水処理施設をいいます。
下水道の計画区域外での、水洗トイレの需要の増加や、地域の河川や用水路の水質を守るために、下水道の代わりになるものとして設置されています。
下水道の整備は、感染症の拡大を防ぐために重要な役割を果たしてきました。
日本での下水道の歴史や整備が進んだ背景、感染症との関係について紹介しておきましょう。
日本の下水道整備は、江戸時代の排水溝に起源を持ち、近代的なシステムへと進化してきました。
江戸時代には、都市部で排水溝が設けられ、排水を川へ流していたのです。
明治時代の近代化とともに、本格的な下水道整備が進められた歴史があります。
近いところでは、下水道の水のコロナウイルスを調査することで、感染状況を把握するというニュースを覚えている方もあるでしょう。
下水道の整備は単なる排水処理にとどまらず、感染症対策や公衆衛生においても欠かせないものなのです。
下水道の普及率を令和5年(2023年)と平成30年(2018年)で比較してみましょう。
令和5年度末時点で、全国平均の下水道普及率は81.4%に達しており、5年間で2.6%増加しています。
また、下水道以外の処理方法も含めた汚水処理人口普及率は、令和5年は93.3%と高くなっています。
汚水処理 人口普及率 |
下水道 | 農業集落 排水施設 |
浄化槽 | コミュニティ・プラント | |
---|---|---|---|---|---|
令和5年 | 93.3% | 81.4% | 2.4% | 9.5% | 0.1% |
平成30年 | 90.9% | 78.8% | 2.7% | 9.2% | 0.2% |
平成30年度末の汚水処理人口普及状況について | 報道発表資料 | 環境省・報道発表資料:令和5年度末の汚水処理人口普及状況について – 国土交通省 のデータより抜粋
※人口を四捨五入しているため、数字にずれが生じています
県別の下水道の普及率とあわせて考えると、都市部では公共下水道が普及していますが、地方では、農業集落排水施設や浄化槽が重要な役割を果たしているといえるでしょう。
下水道は家庭から出る排水を、処理する浄水場まで流しています。
下水道の仕組みや家庭排水が、どのように処理されるかを解説していきましょう。
下水道の仕組みは、家庭や事業所から出る排水を集め、安全に処理して川に放流します。
下水は、下水管・ポンプ場・下水処理場・放流という施設や段階を通りきれいな水になるのです。
施設 | 役割 |
---|---|
①下水管 | ・家庭や事業所から出た汚水を汚水管で集めて下水道に流す ・家の屋根や道路などに降った雨を雨水管で集めて雨水専用の下水道で流す |
②ポンプ場 | ポンプ場には2つの役割がある ・汚水を下水処理場まで運ぶ ・雨水管の水を川に放出する |
③下水処理場 | ・汚水をろ過・消毒し、きれいな水にする |
④放流 | 河川・海などの公用水域に放流 |
下水管には傾斜がついているため、水が自然に流れる仕組みで、途中にあるポンプ場の機能も使いながら、処理場まで運ばれていきます。
家庭で使われた排水は、キッチン、洗濯機、お風呂、トイレなどから、排水管を通じて外に流れます。
家庭内のすべての排水管は、「マス」と呼ばれる中継地点に集められ、そこから地域の地下にある公共の下水道管へと流れていきます。
家の敷地内にあるマスは、異物を沈殿させる役割も果たしているため、定期的に掃除が必要なことを覚えておきましょう。
各家庭からの排水は、下水道管を通って処理場に運ばれ、処理された後、自然環境へ戻される仕組みになっています。
実際に、家庭内の汚水がどのように処理されきれいになるのか、気になるところではないでしょうか。
場所 | 流れ | |
---|---|---|
①家庭のトイレ | 敷地内の排水管を流れ他の排水と共にマスに集められ下水道へ | |
②公共の下水道 | 自然勾配とポンプを使って処理場まで流す | |
処理場 | ③沈砂池 | 大きなゴミや砂などを沈殿させる |
④最初沈殿池 | 小さなゴミや汚れを沈殿させる | |
⑤反応タンク | 微生物による汚れの分解 | |
⑥最終沈殿池 | 微生物と泥を沈殿させ、きれいな水と分ける | |
⑦急速砂ろ過池 | 砂にろ過させてさらに細かい汚れを除去する | |
⑧消毒 | 水を殺菌消毒する | |
⑨放流・活用 | 処理水を河川に放流または、活用する場所へ流す |
家庭から離れた浄水場まで運ばれた排水は、多くの過程を経て自然環境に戻されます。
下水道普及率が高くなり、排水は適切に処理されていますが、家庭からの排水に少し気を使うことで、地域の水循環をより健全に保てます。
環境に負担をかけないためにも、排水に流す際に気をつけたいことは2点あります。
ひとつは、「食べカス・台所の生ごみ・油を流さない」ことです。
これらはゴミとして処理するよう心がけましょう。
とくに油は、冷えて固まると排水管に付着し詰まりやすくなります。
もう一つは、「適量を超えた洗剤・微生物が分解できない洗剤」は使わないことです。
現在、家庭用に市販されている洗剤は、ほぼ浄水場で処理が可能といわれていますが、環境への配慮は忘れないようにしましょう。
家庭の排水をスムーズに流すためには、定期的な排水管の掃除が欠かせません。
排水トラップは、髪の毛やゴミがたまりやすいため、定期的に掃除しましょう。
キッチンの、排水管は定期的にぬめり取りをしておくことも大切です。
庭や屋外にあるマスも忘れずに掃除を行い、泥や落ち葉が詰まらないよう注意しましょう。
排水管に異常を感じた場合は、早めに専門業者に相談して、排水トラブルを未然に防ぐことで、快適な生活が遅れます。
下水道普及率には地域差があります。都市部では下水道は高い普及率ですが、山間部や家が点在する地域では、浄化槽や農業集落排水設備なども設置し、水の環境を守っているのです。
下水道の仕組みや役割を理解することで、私たちの生活にとって下水道は欠かせないものであることがわかってくるでしょう。
下水道普及率の向上を進め、利用者一人ひとりが正しい排水処理を心がけることで、より快適で持続可能な社会の実現につながります。